サフォーク州ピンクのコテージ

何でも、イングランドのイースト・アングリア地域のサフォーク州に残る、中世に遡る古いコテージのうち、70%はピンク色の壁をしているのだそうです。そのため、こうしたピンク色をした壁のコテージは、俗に、サフォーク・ピンクと呼ばれています。

イースト・アングリア地方は、建設に使えるような大きな石を採掘できる場所がないため、教会などの大切な建物以外の、民家や一般の建物は木造漆喰が主。

サフォークは、古くは羊毛で栄えた場所です。羊毛が多く生産されれば、当然、それに付随する染色業なども盛んになるわけで、かつては、染色のための材料は、周辺の自然から求め、染色業者たちは、その辺を歩き回り、植物、木の皮、果実その他もろもろを収集し、羊毛を染めるのに使っていました。おそらく、そういった染色業者たちが、同じような自然素材を、コテージの上塗りをする漆喰に混ぜて、村の家々も、綺麗に染まっていったのではないかという話です。その中でも、なぜに特にサフォークでは、ピンクの壁が人気となったのかはわかりませんが。村中の家が、すべて真っ白というのも素っ気無いですから。

上記、中世の染色説は、なかなか説得力ありますが、いやいや、サフォーク・ピンクが人気となって、コテージの漆喰に色を混ぜるようになるのが一般化するのは、19世紀も後半になってからの、比較的、近年の現象だという説もあります。

伝統的にどの時代まで遡るかはさておいて、一口にサフォーク・ピンクと言っても、淡いパウダーピンクから、限りなく赤に近いものまで、シェードは色々。

ピンク色の染料としては、初夏に、香りの良い白い花を咲かせるエルダーの実(エルダーベリー)などが使われたそうです。見た目は黒のエルダーの実ですが、つぶすと確かに、赤い汁が出てきます。気がつくと、9月も半ばを過ぎ、もうエルダーベリーも終わりかけています。

エルダーベリーの他には、乾かした家畜の血液や、赤みがかった土なども漆喰に混ぜて使用されたようです。現在では、コテージの壁をピンク色に塗りなおす際は、ただ単にペンキの缶を開けるだけでしょうが。

サフォーク・ピンクをしたコテージたちには、サフォーク内のみならず、周辺のエセックス州やハートフォードシャー州などでも出くわします。

また、こうした古いコテージの壁には、パーゲッティング(pargetting)と称される、漆喰装飾が施されてあるのも、良く眼にします。

私も、こうした可愛らしいコテージの持ち主だったら、壁の色はサフォーク・ピンクで決めたいところです。上の写真のようなちょっと淡い感じのがいいですね。男性は、「俺はピンクの家になど住めん!」などと言う人もいるかなと、だんなに、サフォーク・ピンクの家に住みたいか聞いてみたところ、「家は家だから、居心地さえ良ければピンクでも何でもいい。」という返事が帰ってきました。

*ここに載せた写真のほとんどは、サフォーク州のキャヴェンディッシュ(Cavendish)とクレア(Clare)で取ったもの。その他、一番下の写真、下から3番目の写真はエセックス州の村で見かけたコテージです。

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